ファーマの未来はコラボレーションにある

作者 エリザベス トーマス | 2022年9月5日

今夏ベルリンで開催された第13回DDF(Drug delivery & Formulation, ドラッグデリバリーと製剤設計)サミットには新たなエネルギーが湧くような爽快感がありました。グローバル製薬企業は成功と失敗の大きな分かれ道に差し掛かっています。このような状況下では、業界が一丸となって新技術のもたらす一世一代のチャンスを掴むことが欠かせません。今我々がより一層コラボレーションすれば、多次元でスマートに連携した患者中心の医療が実現できるでしょう。

ただし、従来の製薬企業のサイロ化された研究開発の方法よりも、コラボレーションを呼びかける方が良いと錯覚してはいけません。この点は重要です。新たなアプローチを迅速かつ効果的に自分達の開発計画へ組み込める会社こそ、新技術の展望における勝者となるでしょう。これはエンジニアリング、デジタルヘルス、革新的なドラッグデリバリーデバイスといった側面がどのように組み合わされて、創薬可能な領域を押し広げていけるかを見極めることを意味しています。

まずエンジニアリングについては、幸運にも最近のケンブリッジコンサルタンツ社における経験によって視野が広がりました。弊社は生物学、エンジニアリング、高度なコンピューティングなどの専門知識を独自に融合させたバイオイノベーションの能力を活用して、バイオファーマの顧客へ画期的な商品やサービスを提供しております。

DDFサミットでは、生物学とエンジニアリングの融合というテーマがヤンセンファーマ社、バイエル社、ロンザ社、ベーリンガーインゲルハイム社の専門家による活発なパネルディスカッションで取り上げられました。AIや機械学習、低消費電力動作の進展によって、新世代のスマート医療機器やコネクテッド医療機器が実現しつつあります。

データの品質と相互運用性

インテリジェント・ヘルスケア部門のヘッドである同僚のジョー・コリガンが説明するように、最終的には上述した機器の成功は、統合された技術プラットフォームによるデータの品質と相互運用性にかかっています。DDFサミットのパネルディスカッションでは、「データサイエンティストが生物学や幅広い製薬業界の状況をより深く理解することで最善の結果を得られる」という意見に満場一致で賛成となりました。そのため、生物科学とデータを相互運用できるようにすることが急務となっています。

これによりドラッグデリバリー技術に磨きがかかり、真に強力な個別化および予測的な要素を提供できると考えられます。エンジニアが思い描くものと、生物学が提供するデータ、洞察、知能との間での乖離を防ぐことが不可欠です。弊社のハーシャル・シャーは薬物送達のための小型アクティブインプラントの重要性についてDDFサミットで講演し、この種のコラボレーションに関して、技術的な実現可能性と商業的機会に関する多くの疑問に答えました。

ドラッグデリバリー技術はヒューマンファクター(*1)の分野とつながっています。ノバルティスファーマ社はDDFサミットで、「なぜ」「どのように」を常に考えてインプラントや関連機器を設計することの重要性を強調しました。これは「良いデバイスとはどういうものか」を出来るだけ早期に確立するためです。

*1:デバイスが安全かつ経済的に動作・運用できるために考慮しなければならない人間側の要因のこと

どんなに感動と興奮を与える革新的技術であっても、ヒューマンファクター研究への徹底的かつ効果的な取り組みがなければ、革新的技術が安全面で危険にさらすことにもなりかねません。これは人間行動と心理学は勿論、ここまでお話ししてきたあらゆる側面を含む多次元的な課題です。ヒューマンファクターが技術と歩調をあわせて発展していくためには、コラボレーションとアジリティ(機敏性)の精神が不可欠です。

ナノテクノロジー、構想から実現へ

DDFサミットでは、医薬品分野においてナノテクノロジーがどのように構想から実現へと移行しているかについて、バイエル社の講演が盛況でした。ナノテクノロジーを活用した薬剤の直接投与が可能と考えられる臓器について、専門家が解説しました。このイノベーションの分野では、できるだけ早い時期にコラボレーションと統一的なアプローチが必要だと思います。

これまでの薬剤から「ドラッグデリバリーデバイスの観点からの探求と問いかけ」へと焦点を移していく必要があります。もしもナノテクノロジーを駆使した新しい製剤と、効率的に直接薬剤を臓器へ投与できる機器を設計することができれば、より一層効果的な治療メカニズムに向けて業界を牽引していけるでしょう。

原子・分子・超分子スケールの研究開発というこれまで未知だった世界へ踏み出すにあたり、生体適合性は極めて重要となってきます。デバイスと生物学的製剤の相性が悪いと、効能の妨げになることはよくあります。重要な構成要素がお互いにどのように作用し合っているかを理解し、結果に悪影響を及ぼさないようにすることが絶対に必要なのです。

DDFサミットを受けた上記考えについてご理解いただけたことと存じます。このサミットは、業界が従来の製剤やドラッグデリバリーの世界から脱却し、スピード感を持って動いていることを証明するものでした。しかし、更なる努力が必要です。ケンブリッジコンサルタンツ社は、「現在の考え方にとらわれない未来への信念」をビジョンに掲げており、この領域において深く同感できるものです。

現状を打破しましょう。コンセプト創造の段階で大胆な疑問をするようにしましょう。共通の目的のために補完しあう分野や専門知識を積極的に統合しましょう。前代未聞のわくわくするような新技術の融合が、今まさに起きています。これを利用することで、世界中の患者さんの予後を改善できる絶好の機会が到来しています。もしこのテーマについて更に議論したい方は、 こちら までメールをお送りください。皆様のご見解をお待ちしております。

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製薬・バイオテクノロジー分野の医療技術に特化した英国を拠点とするグローバル医療技術部門のメンバー。生物学、ソフトウェア、エンジニアリングを組み合わせた革新的で技術的な製品およびプロセスの開発・市場投入のため、グローバル製薬企業および新興企業とのパートナーシップを構築した経験を持つ。ダラム大学で生物医学を専攻し、神経発達障害及び神経変性疾患の分野で経験を積む。

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