細胞治療にかかる費用や時間の負担は減らせるのか?

作者 マシュー ジョーンズ | 2021年11月9日

細胞・遺伝子治療は、白血病など主に血液感染性の癌などこれまで治療不可能な病気に対して、驚くべき効果を発揮していることに間違いはありません。患者さんから細胞を取り出してから修正し、再び細胞を導入して体を回復させるというプロセスは、とてもシンプルで洗練された印象をうけます。しかし、患者さん一人当たりにかかる価格が50万ドル前後であることから、この革新的な治療法に、費用と時間がかかることは明らかです。

細胞治療薬をより簡単に製造する際、大きな障害の一つとなるのは、汚染されたバッチがもたらす可能性が高い大きなリスクです。最近の研究によると、細胞治療の全バッチのうち2%が無菌性の確保が難しいがために失敗に終わるそうです。その場合、再度患者さんから新しい細胞を採取し、修正、培養、汚染がないかどうかを確認するという手順を最初からやり直さなければなりません。この一連の作業には時間がかかり、細胞を採取してから患者さんの体内へ戻されるバッチが承認されるまで、最大で24日かかることもあります。多くの場合、患者さんに十分な時間的余裕はありません。

また、時間だけでなく費用もかかります。細胞の培養や検査において、清浄度の高い無菌室や熟練した技術者等が必須です。そこで私たちは、すべての手順をよりシンプルに、より早く、より自動化する方法はないかと考え、そのためのプロジェクトチームを編成しました。

PureSentry: リアルタイムでの細菌汚染検出は、細胞治療技術に変革を起こせるのか?

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機械学習と人工知能に適した機器

このプロジェクトの最初の光明は、新しいタイプのカメラが発表された記事でした。Prophesee社によって開発された技術は、「metavision (メタビジョン)」と呼ばれ、今までにないカメラが開発されました。このカメラにはニューロモーフィックの技術が使用されており、私たちの目と同様な動きをし、一瞬で変化を見つけ、関連性のないものを除外します。

私たちの目の動きに似ていることから、特に機械学習や人工知能に適したデータが得られ、高密度の情報を迅速かつ低コストで解析することができます。物理学系の出版物でこのカメラについての記事を読んだ時、無人自動車や物流倉庫などの産業用アプリケーションに使用可能だろうという話がでていましたが、それだけではなく、細胞治療での微細な細胞やバッチの異常の検出も可能ではないかと思いました。

Prophesee社の技術を、初めて細胞治療アプリケーションに試してみたところ、非常に効果的に作動したのは嬉しいことでした。実際、その技術をバイオ製造における汚染検知に使用を可能にするため特許を申請しています。

このカメラは、私たちが試作した新しい細胞治療機器PureSentry.の心臓部(正確には目)となっています。PureSentry.は、細胞バッチの汚染をリアルタイムに確認することができ、患者さんに合わせた細胞治療を行うための効率を向上させることができる画期的なオンライン検査機器です。

PureSentryは、マイクロ流体を使用して細胞バッチをリアルタイムで継続的にProphesee社のカメラで監視し、バッチの品質管理に失敗する原因となる個々のバクテリア(および潜在的な他の微生物)の出現を即座に知らせてくれます。

重要なことは、低コストの部品やシンプルな光学、拡張可能な電子工学技術を使用してPureSentryを非常に手頃な価格にすることができたことです。これは、細胞治療バッチのコストよりも数桁安くなるだけでなく、製造中にすべてのバッチを24時間365日監視することが可能であることを意味しています。

無菌検査の自動化

では、PureSentryはどのような仕組みになっているのかというと、マイクロ流体チップが搭載されており、これが細胞治療用バイオリアクターに接続され、ハンズフリーで動作します。イベントベースのカメラは、細胞バッチを連続的に監視し、汚染物質をすぐに発見することができます。これにより、汚染検出プロセスは現在の速さより、はるかに迅速に処理ができます。バッチが失敗しても、より早く患者さんから新しい細胞を採取し、製造プロセスを再開することができます。

さらに、バッチのモニタリングは、無菌性を確認するために貴重な細胞の一部を破壊する現在の方法とは異なり、非破壊的な方法が可能です。また、PureSentryは手袋をはめたままでもタッチパネルで簡単に操作できるため、清潔度の高いバイオ製造環境での使用に適しています。

  

細胞・遺伝子治療分野の現状を調査したGlaxoSmithKline社の最近のレポートによると、全体のコストの59%は細胞等の処理と分析に充てられています。患者さん一人当たりの治療費が約50万ドル (57,500,000円/1米ドル=115円の場合) かかると言われますが、価格を下げることで、患者さんとってより身近な治療にすることは大きな価値につながります。PureSentryは、まさにその可能性を秘めています。

重要なのは、極めて拡張性が高く、熟練した技術者ではなくても、多くのサンプルの安全性を同時にモニタリングができることです。このように無菌検査を自動化することで、細胞治療や遺伝子治療のコストを大幅に削減することができ、より多くの患者さんが細胞・遺伝子治療という救命処置を受けられるようになります。

2019年12月に社内の同僚約7名でチームをつくり、今回のプロジェクトを開始しました。その翌月の2020年1月には、チームの規模は2倍になり、私たちの技術が細胞・遺伝子治療におけるメーカーの懸念を払拭するため、再生医療の技術先端を担う英国政府が設立した機関であるCell and Gene Therapy Catapult (細胞・遺伝子治療製造センター)に検証を依頼しました。

その過程で、いくつかの課題を克服してきました。特に苦労したのは、細胞治療メーカーの非常に特殊なニーズである、高い感度での自律動作が長時間可能な装置への変換でした。一般的なカメラで得られるような見慣れた画像ではなく、事象を時間軸で表すため、光化学系を正しく設定し、新しい事象をベースとした生データを扱うことは決して簡単ではありませんでした。

本チームの次のステップは、細胞治療分野におけるメーカーや機器ベンダー、科学機器の専門家と協業し、その先にいるお客様のビジネスの成長や成功のため、より迅速で綿密な汚染検出を可能にすることです。私たちの目標は、市場投入のための商業システムの開発を支援し、最終的には将来の細胞療法にかかる費用と時間を削減することであり、今後の展開に期待しています。詳細につきましてはこちらへ ご連絡 ください。

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