個人的な見解ですが、5Gは過剰な期待に応えられる準備ができているとは思えません。なぜなら、5Gは全ての無線ネットワークと同様に主な用途である公共インフラとして設計されているからです。例えば、 ジープ社のチェロキーという車を思い浮かべてみてください。オールラウンドな車ですが、インディアナポリス500(走行距離500マイルのスピードを競うレース)などのレースに参加するための車としては適していません。本記事でお伝えしたいのは、インディカー(IndyCar)のような性能を普通の車でも出せるようなカスタマイズ、新しい産業市場で5 Gの可能性を最大限に引き出すためのファインチューニング(既存のモデルの一部を再利用して、新しいモデルを構築する)という手法があるということです。
5Gの真価
まずは、最新の動向から見ていきましょう。スマートフォン以外のユースケースを5G標準にて考慮しようとする取り組みがありました。 これは、よくあるモバイルワイヤレスのアプローチで、新しいユースケースにより市場開拓するために追加機能を提供するのです。
しかし、チップセットやネットワーク機器ベンダーは、当然のことながらユーザーのほとんどが必要な機能に重点を置いており、スマートフォン時代では、Webサービスにスムーズにアクセスできるようデータレートの向上が焦点でした。5G についても同様で、超低遅延などあまり主流でないユースケース向けの機能は、製品ではサポートされていません。理論的な実用性とマーケティングメッセージにもかかわらず、多くの限られたユースケース向けに提供されたり実績を挙げたりしていないのです。
5Gの共通部品
真の課題は、産業分野でのユースケースが実現困難であるというよりは、5Gで無線ネットワークの要件を満足できるかどうかです。各ユースケースが個別に異なる運用要件を持っており、例えば、産業オートメーションでは高い信頼性と低遅延を必要とするかもしれません。
よく見る5Gトライアングルでは、高速大容量通信(eMBB: enhanced mobile broadband)、多数端末同時接続(mMTC: massive Machine Type Communication)、超高信頼低遅延通信(uRLLC: ultra-Reliable and Low Latency Communications)が主なターゲット領域であると特定し、視覚化しています。ただ残念ながら、これは単純化しすぎたものであり、各ターゲット領域の技術の相対的な成熟度と、それらのユースケースがどれだけ特殊であるかのバランスについて考慮されていません。5Gはジープ車のように実用的で、高速大容量通信の活用を主目的としており、ユースケースがこれから遠のくほど、カスタマイズをしない限り、無線ネットワークへの要件を妥協せざるを得なくなります。
カスタム無線ネットワークをゼロから構築することは、従来から高い壁とされてきました。 例えば、過去にロボット制御用の無線システムを構築した際には、ソフトウェア、ファームウェア、ハードウェア開発に並行して、周波数割当、無線システム設計も必要でした。これら全てが必要無くなったわけではありませんが、必須であるワイヤレス機能(同期、アクセス制御、認証、コーディング、増分冗長性など)の90%が基本要素と考えられ、 実際の価値は残りの 10% の機能によってもたらされます。 全てをゼロから構築しなければならないということは、多くのカスタム無線ソリューションの費用対効果を示すことができないということを意味していました。そのため、理想的な性能を諦め、汎用ソリューションを採用することが多かったのです。
新たなユースケースに挑戦する新興企業がカスタムネットワークを開発する為には、共通の基本要素をすぐに利用できるかどうかにかかっています。これにより、妥協をせずに開発に取り組むことが可能になるでしょう。幸いなことに、5 Gのエコシステムには、OpenRAN、O-RAN、vRAN、マルチアクセスエッジコンピューティング (MEC)など、オープンにアクセスできる取り組みがいくつかあります。これは、5 Gトライアングルにおいて共通のコアであり、イノベーションの機会は、それ以外の領域に存在するという見方ができます。
イノベーションスペース
最後に、周波数資源についてお話します。Wi-Fiがスマートフォン以外の多くのデジタルトランスフォーメーションプロジェクトにおいて主流となっているのは、単なる偶然ではありません。免許不要の周波数帯を使用しているため、ライセンスコストを考慮せずに利用可能です。 ただ、特に信頼性やモビリティ、接続密度が必要な新しいユースケースには、向いていないという欠点もあります。
また、免許不要の周波数帯は無償で利用可能ですが、他のユーザーと共有せざるを得ません。無線パフォーマンスが重要視される場合、周波数を独占して利用することが必須となりますが、通常それは携帯通信事業者のみが出来ることです。周波数帯を携帯通信事業者以外へ開放するという動きが世界的に見られるようです。
コンソーシアムの成果物とオープンな周波数帯割当の組み合わせにより、無線ネットワークをカスタマイズしてデジタルトランスフォーメーションに最適化することはもはや大仕事ではありません。必要な部品の90%が揃っているため、価値の高い残りの10%に焦点を当てることができるので、携帯通信事業者が成し得なかったイノーベーションの実現が可能となります。携帯通信事業者以外が無線技術に投資するのは、カスタマイズされた(実証済みである共通コアコンポーネントに基づいて構築された)ネットワークに競争優位性があるからです。
重要なのは、複数のエコシステムにより基本機能が共有され、各業界や企業の知見から要件定義をし、高いパフォーマンスをもたらすことです。ケンブリッジコンサルタンツは、それらのエコシステムで活発に活動しており、ネットワークをカスタマイズする先駆者として、トレンドであるオープンシステム化から生まれる可能性に期待を寄せています。イノベーションスペースにある可能性を見出していきましょう。
ケンブリッジコンサルタンツは、2020年7月14日に開催されたT-Mobile社とGeoverse社のWebセミナー「5G、CBRS、プライベートセルラーネットワークによる産業の変革」に参加しました。
専門家
米国ボストンに拠点を置き、テクノロジー部門の責任者として豊富な経験を有する。お客様のビジネスニーズを満たす技術革新を生み出すべく、卓越した技術とサポートを提供。技術者として、デジタル技術 (無線通信、AI/ ML、エッジコンピューティング)の進化を常に探求し、新しいアプリケーションにおいてこれらの進化を活用し、事業機会の拡大に従事している。